唐梨の木
Since 2006.12.12
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見上げた空は青かった
かごめは、なんていうか、一言でいえば変な奴だ。
それは、端々に見える言葉遣いの違いだとか、限界に挑戦している袴の丈だとか、そんなことじゃない。
たった数日共に過ごしただけで、おれの中に当たり前のように入ってきた。そして、気付けば手離せなくなっている。
かごめ本人には絶対言わねえが。
半妖という存在自体を知らなかったからといって、決して友好的とは言えないおれの言動や容姿にも怯まず食ってかかる度胸だとか、刃を向けた相手にも事によっては手を差し出す寛容さだとか、そういった所が他の奴らとは違った。
ともすれば危うささえ感じるその気質も、おれは嫌いじゃないのかもしれない。
時折、年の割に幼さが見え隠れするのも、まあ、別に構わねえかなと思うようになってきた気がする・・・。
とにかく、かごめに関してはおれも随分寛容になってきたと、思っているが、だからといってこれは、どう考えてみても許容しちゃならねえと思うぞ。
「あ!犬夜叉だ!おーい」
(おーい、っておまえ・・・)
おれは、声のする方を見上げた。・・・そう、“見上げた”のだ。
視線の先には、一丈半(いちじょうはん)ほど高い木の枝に立つかごめが、手こそ振りはしなかったが、おれを見つけてにこにこしている。
無論、おれは声を掛けられる前から―――かごめが最後の枝に足を掛けたあたりから―――気付いていたが、あまりのことにそのまま硬直してしまっていたのだ。
15の娘がすることじゃない。
今まで人の社会から外れて生きてきたせいか、村人たちが持つような常識だとか価値観だとかとはずれている自覚はある。でなければ、かごめを始めこの顔ぶれで旅をするなどできなかっただろう。
だから、女がどうとか男はどうとかにはあまり拘らないが、一応15の娘というのがどういうものであるのかは、理解しているつもりだ。
少なくとも、あんな嬉々として木に登るもんじゃない。
「・・・なに、やってるんだおめえ」
見上げた先のかごめは、大きな目をぱちくりさせて、小首を傾げる。
「木に登ってるの」
「いや、そうじゃなくて」
そんなもの見ればわかる。
時々、かごめとおれは意思疎通ができてないんじゃないかと思う時がある。
おれそんな難しいこと言ったか?
「ああ!今ね、この子の竹蜻蛉がこの木の枝に乗っちゃったから、わたしが取ってあげようとしてたの」
視線を下げれば、村のガキが数人固まって、こちらの様子を窺っている。かごめの衝撃ですっかり視界から消えていた。
そして、かごめが手を掛けている枝の先を見れば、たしかに一本の竹蜻蛉が引っかかっている。
「それじゃあ、揺らすよー」
そう言うと、腰を落として、枝を揺らし始めた。がさがさと枝が鳴り、木の葉が数枚落ちた。そのうちに枝に引っかかっていた竹蜻蛉が外れ、くるくると落ちてきた。
「あ!取れた!かごめお姉ちゃんありがとう!」
下で見守っていたガキの1人が落ちてきた竹蜻蛉を拾うと、かごめに向かって礼を言う。
「今度からは広いところで遊ぶのよー」
「はーい」
元気よく返事をすると、広い草原目指して駆けていく。その後ろ姿を見送っても、かごめは降りる気配がない。
(・・・おい、まさか降りられないとか言わねえよな)
そんなこと言い出したら、放っていく。
そう思うのに、なぜおれはかごめのいる木の下まで来てるんだ。
頭上にいるかごめは、しかし降りられず困っているという顔ではなかった。相変わらず嬉しそうにどこか遠くを見ている。
なぜかその視線を捕まえたくなった。
「犬夜叉はずるいなー」
「はあ?」
唐突に何を言い出すんだこいつは。おれが何をしたっていう。
「いつもこんな景色見てるんだねー」
こんな景色ってどんなだ。
おれのいる場所からはかごめの視線の先に何が見えるのかはわからない。たぶん、ここからならせいぜい村とその先の山くらいだろう。
そこでふと気付く。
木の上にいるかごめと、見上げるおれ。普段とは逆だ。
いつもかごめはこんなふうにおれを見ていたのか。
一緒にいても、見ているもの、見えているものはこんなにも違う。
それは、端々に見える言葉遣いの違いだとか、限界に挑戦している袴の丈だとか、そんなことじゃない。
たった数日共に過ごしただけで、おれの中に当たり前のように入ってきた。そして、気付けば手離せなくなっている。
かごめ本人には絶対言わねえが。
半妖という存在自体を知らなかったからといって、決して友好的とは言えないおれの言動や容姿にも怯まず食ってかかる度胸だとか、刃を向けた相手にも事によっては手を差し出す寛容さだとか、そういった所が他の奴らとは違った。
ともすれば危うささえ感じるその気質も、おれは嫌いじゃないのかもしれない。
時折、年の割に幼さが見え隠れするのも、まあ、別に構わねえかなと思うようになってきた気がする・・・。
とにかく、かごめに関してはおれも随分寛容になってきたと、思っているが、だからといってこれは、どう考えてみても許容しちゃならねえと思うぞ。
「あ!犬夜叉だ!おーい」
(おーい、っておまえ・・・)
おれは、声のする方を見上げた。・・・そう、“見上げた”のだ。
視線の先には、一丈半(いちじょうはん)ほど高い木の枝に立つかごめが、手こそ振りはしなかったが、おれを見つけてにこにこしている。
無論、おれは声を掛けられる前から―――かごめが最後の枝に足を掛けたあたりから―――気付いていたが、あまりのことにそのまま硬直してしまっていたのだ。
15の娘がすることじゃない。
今まで人の社会から外れて生きてきたせいか、村人たちが持つような常識だとか価値観だとかとはずれている自覚はある。でなければ、かごめを始めこの顔ぶれで旅をするなどできなかっただろう。
だから、女がどうとか男はどうとかにはあまり拘らないが、一応15の娘というのがどういうものであるのかは、理解しているつもりだ。
少なくとも、あんな嬉々として木に登るもんじゃない。
「・・・なに、やってるんだおめえ」
見上げた先のかごめは、大きな目をぱちくりさせて、小首を傾げる。
「木に登ってるの」
「いや、そうじゃなくて」
そんなもの見ればわかる。
時々、かごめとおれは意思疎通ができてないんじゃないかと思う時がある。
おれそんな難しいこと言ったか?
「ああ!今ね、この子の竹蜻蛉がこの木の枝に乗っちゃったから、わたしが取ってあげようとしてたの」
視線を下げれば、村のガキが数人固まって、こちらの様子を窺っている。かごめの衝撃ですっかり視界から消えていた。
そして、かごめが手を掛けている枝の先を見れば、たしかに一本の竹蜻蛉が引っかかっている。
「それじゃあ、揺らすよー」
そう言うと、腰を落として、枝を揺らし始めた。がさがさと枝が鳴り、木の葉が数枚落ちた。そのうちに枝に引っかかっていた竹蜻蛉が外れ、くるくると落ちてきた。
「あ!取れた!かごめお姉ちゃんありがとう!」
下で見守っていたガキの1人が落ちてきた竹蜻蛉を拾うと、かごめに向かって礼を言う。
「今度からは広いところで遊ぶのよー」
「はーい」
元気よく返事をすると、広い草原目指して駆けていく。その後ろ姿を見送っても、かごめは降りる気配がない。
(・・・おい、まさか降りられないとか言わねえよな)
そんなこと言い出したら、放っていく。
そう思うのに、なぜおれはかごめのいる木の下まで来てるんだ。
頭上にいるかごめは、しかし降りられず困っているという顔ではなかった。相変わらず嬉しそうにどこか遠くを見ている。
なぜかその視線を捕まえたくなった。
「犬夜叉はずるいなー」
「はあ?」
唐突に何を言い出すんだこいつは。おれが何をしたっていう。
「いつもこんな景色見てるんだねー」
こんな景色ってどんなだ。
おれのいる場所からはかごめの視線の先に何が見えるのかはわからない。たぶん、ここからならせいぜい村とその先の山くらいだろう。
そこでふと気付く。
木の上にいるかごめと、見上げるおれ。普段とは逆だ。
いつもかごめはこんなふうにおれを見ていたのか。
一緒にいても、見ているもの、見えているものはこんなにも違う。
そんな事をなんとなく理解した気がした。
かごめからしてみれば、おれも充分変な奴なのかもしれねえ。
何も言わず見つめていたからだろう、かごめが不思議そうに首を傾げて見下ろしてくる。
やっと視線を捕まえることができた。
「なあに?」
「袴の中丸見えだぞ」
「え!?あっ・・・きゃあっ!」
「わっ!?」
とっさに袴を抑えようと、手を離したかごめの体がぐらりと傾く。
そのまま手は空を掻いて、体は落下を始める。
おれは慌ててかごめの落下地点へと移動した。
細い枝を折りながら降ってくるかごめをやや待ち構えて、しっかりと抱き止める。
衝撃が過ぎるとふわりとかごめの匂いが遅れて降ってきた。
「ばかやろう!手を離すやつがいるか!!」
全力疾走した後のように心の臓が激しく鳴っている。なんで、落ちたこいつよりおれの方がこんな慌ててるんだ。
「信じらんないっ。犬夜叉のエッチ!スケベ!」
落ちた衝撃で一瞬呆けたような顔をしたかごめだったが、その波が過ぎるとおれの腕の中で勢いよく暴れだした。
「な!?だれがスケベだ。助けてやったってのに」
「何が助けてやったよ!誰のせいで落ちたと思ってんのよ!」
「お前がしょうもないもん見せてっから言ってやったんじゃねえか!」
「なんですって!?しょうもないものって何よ!!」
抜け出そうと更に勢いよく暴れるかごめを、罵り合いながらも離さない。今離したらぜってえ“おすわり”が待ってる。
細っこいかごめがどんなに暴れても、押さえ込むなんて訳ない。
とにかく“おすわり”回避しか頭に無かったおれは、この時自分たちがどう見えてるかなんて考えてもみなかったのだ。
その夜、どこにいたのか一部始終を見ていた弥勒に盛大にからかわれるまで。
かごめからしてみれば、おれも充分変な奴なのかもしれねえ。
何も言わず見つめていたからだろう、かごめが不思議そうに首を傾げて見下ろしてくる。
やっと視線を捕まえることができた。
「なあに?」
「袴の中丸見えだぞ」
「え!?あっ・・・きゃあっ!」
「わっ!?」
とっさに袴を抑えようと、手を離したかごめの体がぐらりと傾く。
そのまま手は空を掻いて、体は落下を始める。
おれは慌ててかごめの落下地点へと移動した。
細い枝を折りながら降ってくるかごめをやや待ち構えて、しっかりと抱き止める。
衝撃が過ぎるとふわりとかごめの匂いが遅れて降ってきた。
「ばかやろう!手を離すやつがいるか!!」
全力疾走した後のように心の臓が激しく鳴っている。なんで、落ちたこいつよりおれの方がこんな慌ててるんだ。
「信じらんないっ。犬夜叉のエッチ!スケベ!」
落ちた衝撃で一瞬呆けたような顔をしたかごめだったが、その波が過ぎるとおれの腕の中で勢いよく暴れだした。
「な!?だれがスケベだ。助けてやったってのに」
「何が助けてやったよ!誰のせいで落ちたと思ってんのよ!」
「お前がしょうもないもん見せてっから言ってやったんじゃねえか!」
「なんですって!?しょうもないものって何よ!!」
抜け出そうと更に勢いよく暴れるかごめを、罵り合いながらも離さない。今離したらぜってえ“おすわり”が待ってる。
細っこいかごめがどんなに暴れても、押さえ込むなんて訳ない。
とにかく“おすわり”回避しか頭に無かったおれは、この時自分たちがどう見えてるかなんて考えてもみなかったのだ。
その夜、どこにいたのか一部始終を見ていた弥勒に盛大にからかわれるまで。
こいつの頭殴ったら、記憶吹っ飛ぶだろうか・・・
一丈:一尺の10倍。かね尺で約3.03メートル、鯨尺で約3.79メートル。(一丈半=4.5~5.7メートル)