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唐梨の木

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いつの間にか、当たり前になった風景。

犬かご。ほんの~り弥珊、というより弥勒?

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帰る場所
 


「あ!おかえりー」
傾く夕陽が山の稜線を黄金色に縁取り、黒々とした山並みを浮かび上がらせ、色濃くなった草木の陰からは虫の音が聞こえ出していた。
 村の入り口に差し掛かると、夕陽を背にして手を振る人影が出迎えた。惜しげも無く晒された白い腕が、夕陽に照らされ眩しい。逆光で顔が判らなくとも、この透き通る可愛らしい声を間違えるはずがない。
「な、かごめっ、おまえ何でこんなとこにいるんだよ」
 その様子に驚いた犬夜叉は、慌てて地を蹴り、小さなつむじ風を作った。
 たたた、と軽やかに走り寄るかごめとの距離を、犬夜叉は一足飛びで縮める。ふわりと鴇色に染まった犬夜叉の銀糸の髪が舞った。
「そろそろ帰って来るころかなあって思って、迎えに来たの」
 かごめが笑っているのが解るほど、その声は弾んでいる。
「迎えに来たのじゃねえ!こんな刻限に外ふらつきやがって、何かあったらどうする!」
 逢魔が時。陰と陽とが混ざり合い、その境界線が曖昧になるそんな刻限である。じわりじわりと闇があたりを侵食し、その支配を広めていく。そんな中に半妖の怒声が響く。
 花が咲いたようなという形容詞が似合うであろうかごめに対し、犬夜叉は険しい顔付きでかごめを見下ろした。
「大丈夫よ。まだ村の中だし、それにちゃんと弓矢も持ってきたもの」
 犬夜叉の態度に、流石のかごめもそれまでの笑顔を納めると、わずかに口を尖らせたようだ。
「そういう問題じゃねえ!だいいち、人間相手じゃおまえの矢は使えねーだろうが。妖怪だって気配を消されて来られたら、おまえなんかじゃ矢を番える前にやられるのがオチだ!日が暮れたら、楓婆のとこか珊瑚のとこ行ってろって言っただろう!何かあってからじゃ遅いんだぞ!」
「さっきから何かって何よ、人を子どもみたいに!犬夜叉が帰ってくるのが遅いから、心配してたんじゃない!!」
「ある意味かごめの方がガキより危ねえよ。日が暮れてから外ふらつくんだからな」
「だから―――」 
「はいはい、そこまで」
いつまでも続けそうな勢いの2人を、それまで傍観を決めていた弥勒が制した。
「そろそろ私をかわいい妻と子の元へ帰らせてください。それに、二人の声が村中に響いてますよ」
「え」
「あ・・・」
 これ見よがしに嘆息して見せると、慌てて2人はさっと周囲に視線を投げた。
2人の横を野良仕事帰りの村人が苦笑を浮かべ、会釈していく。少し遠くでも、こちらを見つめる顔がちらほら。みな今日1日の仕事を終え、家路についていたのだ。中にはわざわざ小屋から顔を覗かせている者もいる。
「犬夜叉も心配なのは分かりますが、もう少し言い方を考えなさい」
「なっ、別におれは・・・」
 気不味そうに黙ってしまった2人だが、揶揄を含んだ弥勒の言葉に犬夜叉が顔を上げた。 その顔が赤く見えたのは夕陽のせいだけでは無いだろう。
犬夜叉はかごめが戻って来てから、まったく過保護になったものだ。心配で心配で、本当は片時もかごめの傍から離れたくは無いのだろう。
 そんな犬夜叉をからかうのは楽しいが、弥勒はしかしながらと、かごめへと視線を移す。
「かごめさま、最近妖怪も雑魚ばかりになったとはいえ、世情はあまり芳しく無い。気をつけて下さい」
 不意に真面目な顔をした弥勒に諭され、かごめは一瞬言葉を失う。先ほどまでの勢いを無くし、気まずげに弥勒と犬夜叉を見た。
「・・・はい。犬夜叉ごめんね。弥勒さまも」
 かごめとて、なにも分からない幼子ではない。犬夜叉が心配していることも、弥勒の言っていることが真実であることも、分かっている。
すっかりしょげた様子のかごめは、やはりまだ少女という言葉がしっくりくる。夕陽に照らされた白い肌がほんのり色付いて、更に幼さが増して見えた。
 そんなかごめの頭を、犬夜叉が無言のまま、かき回すように撫でた。かごめが小さな悲鳴を上げ、抗議する。やや乱暴に撫でられた髪を直しながら、かごめの表情に笑顔が戻った。それを見た犬夜叉も満足げに微笑んだ。
「さて、これ以上当てられる前に、私は帰るとします」
 弥勒はいつもの食えない笑みを浮かべると、ひらりと手を振って歩き出した。
 犬夜叉が何か言ってきたが、無視して歩き続ける。弥勒の言葉に、更に夕陽に焼かれただろう2人を残したまま、弥勒は家路についた。
 様子を伺っていた村人も、顔に苦笑のかけらを残したまま弥勒に会釈して帰って行く。

 家が見え始めたころ、弥勒は来た道を振り返った。長く伸びた自分の影のその先に、並んで歩く2人の姿が見える。何やら話している2人の手が、ごく自然に繋がれたのを弥勒は見逃さなかった。
 良かった、と音にならない呟きを零す。
 犬夜叉にああいう顔をさせられるのは、やはりかごめなのだ。笑うことも怒ることも、かごめがいて初めて奴はできるようになる。さっきのような喧嘩の声が再びこの村に響くようになって、まだそれほど経っていない。けれども、3年前と変わらずこの村にすんなりと馴染む。
変わったとすれば、喧嘩の終止符がずいぶんと静かになったことくらいか。

 そんなことをぼんやりと思っていた弥勒の耳に、突然甲高い子どもの泣き声が聞こえた。
 喧嘩をしたのか、珊瑚に叱られたのか、それともその両方かわからないが、2人分の泣き声が響く。その家からは、夕餉の匂いが漂ってくる。何気ない人の営みの中に自分が溶け込んでいるのを感じ、自然と笑顔になった。
 錫杖の涼やかな音とともに、今度こそ弥勒は家へと向かい歩を進めた。
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