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唐梨の木

Since 2006.12.12

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今日はスーパームーンということで、月夜の邂逅のお話を載せてみます。

注)この話は名探偵コナン、まじっく快斗のSSになります。カップリングはありません。主人公はオリジナル、というかモブキャラです。
それでもOKという方はつつきを見るからどうぞ。

拍手[6回]






私は月が好きで、こんなきれいな満月の夜はよく一人で、部屋の電気を消して闇に浮かぶ月を見ていた。



A chance of moonlight night


月光だけで照らされた部屋は思いの外、明るいものだ。薄ぼんやりと浮かぶ部屋で私はカーテンを開けて、パジャマの上にカーディガンを羽織り、いつものように窓際に座って、ぼんやりと月を見ていた。
秋も深みを増し、あちこちで紅葉の知らせを聞くようになってきた。空気が乾燥し冷たくなり始め、空が高く感じるようになると月の魅力は一層増すように思う。

月を見過ぎると魔に魅入られる、と昔の人は言っていたらしいけど、確かに柔らかくも時に冷たくすら感じる淡い月の光はなぜか目が離せなくなる。
きれいに晴れた空では、都心では見る数も限られてしまう星が月の光に負けじと、わずかなダイヤモンドの欠片のようにキラキラと瞬いていた。

現在の時刻、午前0時15分。
都会はこの時間になってもまだ、眠ることを知らない。今も、どこかでパトカーのサイレンが鳴り響いている。1台や2台ではなさそうだ。
(最近は色々と物騒な世の中なものだ)
窓を隔てていてもはっきりと聞こえるそれは近くで何かあったということだろう。明日の新聞にでも載ってるかな、などと、わずか数ミリのガラスに隔たれているだけなのに自分は今安全な場所にいると思えた。そしてまた月に視線を戻す。

「え?」

一瞬だが何かが月を横切った。鳥かと思ったがそれにしてはおかしな飛び方だったし、こんな時間に飛んでいるのも変だ。
もう一度確認しようと窓に頬をくっつけた。ひんやりとした冷たさが、顔に広がっていく。しかし、もうその鳥は見えなくなっており、ただ濃藍【こきあい】の空に銀色の月が浮かんでいた。

(何だったんだろう・・・?)

まあいいか。たまに夜中に烏が鳴くこともあるしな、などと思い時計を見るともう午前1時近くになっていた。
「やばい、明日起きるのきつくなる。」

カーテンを閉めてもそもそとベッドに向かう。そういえば、英語の宿題をやるのを忘れていた。明日―――正確には今日だが―――の朝学校でやれば何とかなるか、なんて考えて掛け布団をめくった。

ぱさり

さっき月を見ていた窓とは違う、ベランダに面した窓の外からなにやら衣擦れのような音がした。
何か飛ばされてきたのかと振り返り、窓の方を向いた。

すると、月の光を浴びて青白く見えるカーテンにやけに頭が長く、体をなびかせた人間のはっきりとしたシルエットが浮かんでいた。
いや、よく見れば長い頭には真ん中あたりに区切るように横棒があることから、おそらく帽子を被っているのだろう。しかも、シルクハットのような長い帽子を。

なぜ、こんな時間にしかもここはマンションの20階であるというのに、どうやって来たのだろう。泥棒だろうか。そう思った瞬間に

“女子高生、深夜20階の部屋に侵入した泥棒と遭遇”

といった新聞や雑誌の紙面が浮かんだ。その内容はできれば想像したくはないが、すうと背中に氷でも入れたような冷たさを感じるには十分過ぎる材料だ。

人を呼ぶべきだろうか。それとも、電気を消しているからもう眠っていると思っているだろうか。それなら、このままベッドに潜って眠っているふりをすればやり過ごせるか。いや、凶悪な犯人ならおそらく、起きていようと眠っていようと関係なく息の根を止めるだろう。今し方まで安全だと思って疑わなかったこの空間が脆いものだったのだと悟り、同時に緊張が張りつめられる。

・・・。

しばらく硬直していたが、一向に部屋に入ろうとするそぶりを見せない。そうなってくると、人間不思議なもので好奇心というものが恐怖よりも大きくなってくるらしく、私はそうっと窓に近づき、カーテンの隙間から外を覗いた。

「・・・!?」

その瞬間私は息を呑んだ。

真っ白なマントにシルクハット、それが月光に写され銀色に輝いている。そんな格好をしている人を私は一人しか知らない。
「か、怪盗・・・キッド・・・」
私のつぶやきが聞こえたのか、気配を感じたのか、背を向けていた彼はゆっくりと振り返った。新聞やテレビでよく見る怪盗キッドがそこにはいた。その顔は逆光とシルクハット、モノクルではっきりとはしないが、私に気づき僅かに目を見開いたのが分かった。しかしそんな表情も一瞬のことで、すぐに笑みを浮かべる。
「こんな夜更けに、女性のお部屋にお邪魔いたしたご無礼をお許し下さい」
そういうと右手を胸に左手を腰に付け、優雅にお辞儀をした。

私はびっくりしすぎて一瞬思考が吹っ飛んだ。

今、私の目の前にいるのは世界の警察機関を相手取り、世間を騒がし魅了している真っ白な罪人。狙うはまばゆい大きな宝石、犯行予告を送りそれを実行し、人の目を欺き逃げおす。
私のクラスでは女子はだいたい2派に分かれている。目の前に立つ「怪盗キッド」派と「高校生探偵工藤新一」派だ。二人が直接対峙したという話は聞いたことはないが、毎回どちらかが新聞の一面を飾ると大騒ぎになる。

まあ、一時期死亡説まで流れた工藤新一は大きな組織を潰して帰ってきてからは以前ほどメディアには顔を出さなくなったけど・・・。

私の友達も例外ではなく、この話に付き合わされる私は二人の情報を嫌でも耳にしていた。
例えば、キッドの犯罪歴だとか、工藤新一のプロフィールだとか、門前の小僧よろしく覚えてしまった。
そういえば、キッドが最初に現れたのは18年前のパリだった。そうだとすれば、今キッドは少なくとも30代後半と言うことになる。

そんなことが一瞬吹っ飛んで空っぽになった頭の中を駆けめぐった。そして、気が付けば私は窓を開けてキッドと向かい合っていた。

「あ、あの、どうして・・・?」
何を言ったらいいのか分からず口にしたのはここにいる理由。
すると、白い罪人はふっと微笑んだ。
「強い風に翼を折られてしまう前に、羽を一時でも畳んでおきたいと思いましてね」

今夜は風の無い静かな夜だ。翼を折るほどの風など、吹いていない。

つまり、彼の言っていることは、自分をバカにしていないのだとしたら、おそらくメタファー。

「風?」
「ええ、少々操り難い風が今夜は吹いているのですよ」

キッドの言う風が何なのかは分からないが、それを回避するために一旦ここに降り立ったということか。にこりとキッドは笑う。私も思わずつられて笑顔を返した。
本当に不思議な人だ。ゆったりとした雰囲気を持ち、相手の緊張をほぐすような笑みを見せる一方で、全く隙がない。そして、人を惹きつける存在感。

そんな彼の魅力に引き込まれていると、低い空気の破壊音がその静かな空間を壊した。

「!?」
キッドはさっと鋭い視線を外に向けた。一気に緊張が張りつめられる。
その音の正体はヘリのプロペラが発する音であった。だんだんと音が大きくなってくる。おそらくこのマンションに向かってきているのだろう。
「キッド・・・!」
私はキッドを自分の部屋へ促そうかと、窓から体をずらした。すると、彼は私の行動の意味を理解したのか、ふっと笑うと私に向かって跪いた。

「貴女のお気持ちは有り難いのですが、私を部屋へ引き入れると言うことは貴女が犯罪の片棒を担ぐと言うこと。貴女のようなかわいらしい女性を犯罪者にしたくはありません」

そして、私の手を取るとそっとその甲に口付けたのだ。
キッドの言動に驚いていた私は何も言えずにぼうとしてしまった。男の人に中世のお姫様のように跪かれるなんてことが、私の生涯で起こるなんて思ってもみなかった。ましてや、手の甲にキスされるなんて・・・!
そんな私にキッドは笑みを落とすとさっと踵を返し、ベランダの手すりに猫のように飛び乗った。

ヘリの音がうるさくなってきていた。ライトが光の帯のようにあたりを横切る。

「それでは、今度は風のない静かな月夜にお会いしましょう。お嬢さん」

最後に彼は私に振り返り、不適な笑みと軽いウィンクを残してそこから夜の闇へと身を投じた。
「キッド!」

私は慌ててベランダの手すりに駆け寄ると、身を乗り出して下を見た。すると、白い翼を広げたキッドは、風を捕まえマンションを離れていく。それに気が付いたヘリがキッドを追う。
その様子を私はヘリの音が聞こえなくなるまで、見ていた。






翌日、私は寝不足になりながも学校へ向かった。教室に入ると先に来ていた友人におはようを言って席に着く。すると、楽しげなその友人は嬉々として夕べの話をしだした。彼女がキッドファンの友人である。
「ねえねえ、昨日のキッド様の活躍知ってる?!犯行現場が近くの美術館だったんだけど、予告時間が遅くて親に行くの止められたんだ~。こんな機会滅多にないのに、あーーくやしい!!」
それでも、生中継の番組を見ていたらしく、情報はしっかり入っていた。彼女も寝不足なのか、いつもよりハイテンションになっている。

「でも、昨日は工藤君も警備に入ってて、宝石は途中で取り戻したんだよ」
工藤新一ファンの友人が登校してきて、輪の中に入る。この二人は普段の仲は良いが、キッドと工藤新一の話題になると白熱した談義が繰り広げられる。


ああ、そうか。キッドが言っていた操り難い風とは工藤新一のことだったのか。平成のホームズと呼ばれている名探偵が、平成のアルセーヌ・ルパンこと怪盗キッドと対峙したら退けをとらないということか。
今日も朝から、白熱しそうになっている二人を横目に夜の邂逅を話すかどうか、迷っていた。

「そういえば、キッド様の逃走ルートにあんたんちのマンションが被ってたよね?もしかして、キッド様見れたんじゃ!?」
「まっさかぁ。だって、キッドが通ったのって夜中の1時過ぎなんでしょ?知ってるならまだしも、知らないのに夜中に窓の外なんて見てないでしょ」

「あ、いや。見たというか・・・」

「「ええぇっ!?」」

私の話を聞いた二人の驚きの声は教室中に響いた。
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