唐梨の木
Since 2006.12.12
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おやこ
あっという間に黒く重い雲が青空を覆ったかと思うと、西の空を光が走った。
「降るのかな?」
かごめは怪しく曇った空を見上げて言った。うっすらと汗が滲んだ肌に着物が張り付いてきて、気持ち悪い。
「ああ、たぶんな。夕立だろうが」
「そっか、やんだら涼しくなるといいわね」
隣に立つ犬夜叉も空を仰いで、風の匂いを嗅ぎながら答えた。鼻のいい彼の言うことなら確かだろう。かごめにも分かるほど、風には水分が含まれていた。
一歩木陰に入れば、日差しと暑さはしのげるが、このまとわりついてくるような湿気はどうにも拭えない。
せめて夕立で涼しい風が吹いてくるようになれば、今夜は過ごしやすくなるだろう。そんな期待を込めて、空を見上げていたかごめはふと隣に目を向けた。
純度の高い蜂蜜のような目は、真剣に空を睨みつけている。それとは対照的に、ピンと立てて、神経質そうにぴくりぴくりと動く耳が可愛いと思ってしまった。きっと言ったら、本人は怒るだろうから言わないでおくけど。
一瞬空が明るくなり、間をおいて低い音が届いた。いよいよ近くなってきたようだ。
びくりと震えた腕の中にいる幼子の様子を見れば、小さな三角耳をピンと立て、不安げに風の匂いを嗅いでいる。
「ふっ、ふふふ」
あまりにそっくりな横顔がそこにあって、かごめは思わず声をたてて笑ってしまった。
「ん?」
「?」
突然笑い出したかごめを、これまたそっくりな二対の金色の目が、不思議そうに見つめてくる。
「ほんと、そっくりね」
いつか犬夜叉にそっくりな耳と目を持った子が生まれればいいと思っていた。
けれど、そのそっくりな様子に少し嫉妬してしまう。
本当にそっくりすぎて、愛しすぎる二人なのだ。