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唐梨の木

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約束の日にかごめを迎えに来てみると、草太が気味が悪いほど上機嫌で廊下を歩いてきた。
「あ!犬のにーちゃん!」
草太の足取りは軽いを通り越して、もはやスキップだ。顔がにやけるのが止められないといった様子で、今にも歌でも歌い出しそうである。
珍しく玄関から入ってきた犬夜叉だが、その草太の様子に自分の気まぐれを後悔した。
(なんだ、こいつ……)
いつにない草太の様子に引き気味になっていると、草太の声を聞きつけた母親が台所から顔を出した。
「あら、犬夜叉くんいらっしゃい。かごめは今買い物に行ってるのよ。帰って来るまでちょっと待っててね」
すぐ戻ってくると思うから、と雑巾を手渡たされた。かごめの匂いを辿って追いかけようかと思っていた犬夜叉は先手を打たれた形となり、玄関に腰を下ろして仕方なく足を拭く。こうなったら、かごめが帰ってくるまで家で待つしかない。
居間に入ると、草太があのにやけ顔でこたつに入っていた。目の前にはピンクのリボンが巻かれた小さな包みが置かれている。
それを見ては、ニタニタ笑いを繰り返す。さらには、ちらちらとこちらを見てくるではないか。
はっきり言って、気持ち悪い。

(言いたいことがあれば、さっさと言いやがれってんだ)

犬夜叉はこのまま放っておけば、ずっと続きそうなこの草太の様子にしぶしぶ問いかけた。
「なんなんだよ、さっきからにやけやがって」
いい加減にしろと、睨み付けても今の草太には意味が無いらしい。
「えへへ、今年のバレンタインは、初めて本命チョコをひとみちゃんから貰ったんだ~」
待ってましたと言わんばかりに、これ以上があったのかというほどのにやけ顔で草太が答えた。

ひとみちゃんとやらのことは、以前酷い目にあったため、覚えている。生意気にもこの年でいる草太と恋仲の少女だ。

「あーそうかい、そりゃあ良かったな」
よく分からない単語を出されて、とりあえず犬夜叉は適当な返事を返してやった。
全く気のない返事をされた草太は、馬鹿にされたとでも思ったのか今までの上機嫌を下げて、口を尖らせた。
「だって、しょうがないじゃん。ぼく、バレンタインにねーちゃんとママ以外の女の子からもらったの初めてだったんだから」
「あ?何を貰ったって?」
かごめの名前が出てきて、思わず聞き返してしまった。
「だから、バレンタインのチョコだよ」
「?なんだそれ」
「チョコレート知らないの!?」
「それぐらいは知ってらあ。おれが聞いてるのはその前のだ」

チョコが何たるかは犬夜叉でも知っている。
時々かごめが七宝や珊瑚にと、持ってくる菓子の土産の中に入っている。遠くからでも匂ってくるあの甘い匂いで、くらくらしたことがあった。
今も草太の目の前にある包みや、薄くはなっているが台所からも甘い匂いが漂ってくる。

「あ、バレンタインの方?え、にーちゃん教えてもらってないの?」
驚いたような草太の様子に、どうやら自分にも関係あることのようだと感じた犬夜叉は、軽く肯定すると先を促した。
「今日はバレンタインデーっていってね、女の子が好きな男の子にチョコをあげる日なんだよ。昨日ねーちゃんチョコ作ってたし、てっきりバレンタインに合わせて向こうに行くのかと思ってた」
違ったの?という草太の言葉はもう犬夜叉の耳には届いていなかった。

ちょっと待て、ちょこを誰にやるって?
それをかごめは、昨日準備してて、それなのに自分はこの日のことを聞かされていない?

(そりゃあ、こっちにしかない風習や行事はおれには分からねえ)

それでも、かごめは自分が楽しみにしていることやおもしろいと思うことを、戦国だろうと現代だろうと犬夜叉の興味有る無しに関わらず誘ってくる。
それを最初はうざったく感じていた。構ってくれるな、勝手に自分の価値観を押し付けるな、と突っぱねてみたりもした。

しかし、しぶしぶそれに付き合ってやると、かごめは嬉しそうに笑った。本当に楽しそうに笑うものだから、いつの間にか形だけは拒否してもかごめの誘いを断らなくなった。

そんなかごめが、何も教えてこなかった。

教えなければ、今日この日は犬夜叉にとっては何でもない日でしかない。それは、今日の行事に自分は関わって欲しくない、ということだろうか。

女が好きな相手に贈り物をする日。

憎からず思っている相手に、異国の行事だとはいえ、黙っていられるのは面白くない。

かごめのその相手は自分では無いということなのだろうか……。


(だーっ!もう、んなこと考えててもしょうがねえだろうが)

らしくねえ、と大ぶりの枝を選んで座り込む。井戸の向こうと比べて、犬夜叉が好むような大きな木はこちらにはあまりなかった。
それでも、暖かいかごめの家を出て外にきたのは、相変わらずな草太と漂うチョコレートの匂いから逃げたかったからだ。かごめの部屋に避難してもよかったが、なんとなく先ほどのバレンタインとやらの説明のせいで、乱された思考を外の風に当たって冷やしたかった。
それに、居心地はそれほど良くはないが、ここからなら鳥居の下の石段の先まで見下ろせた。かごめを迎えに行くなと、暗に言われてしまったが、外で待つなとは言われていない。
それほど待たなくとも、きっとすぐに帰って来るだろう。ふっと過ぎった朔風に髪を遊ばせ、鼻をひくつかせる。

もう直ぐ日が暮れる。
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