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唐梨の木

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向こうへ行くのに荷物の確認をしてみると、包帯や化膿止めが少なくなっているのに気づいて、かごめは買い物に行くことにした。

(まったく、誰かさんがすぐ使うから……)

少ないお小遣いをやりくりして、薬や食料を買うのは大変だ。がさがさと膨らんだビニル袋を両手に持ちながら、帰ろうとしてふと思い出す。

(ああ、そうだ、じいちゃんと草太の分)


バレンタインに向けて作られた特設会場は、バレンタイン当日ともあって、若い女性客で混雑している。
人ごみをかきわけて、草太とじいちゃんの分のチョコを手に取った。ハートのチョコが4つ入った200円のチョコだが、かごめの財布の中を考えれば、これくらいしか買えない。
犬夜叉にと用意したトリュフの材料とラッピング、それと今の買い物で財布が随分軽くなってしまっていた。

(それに今年はひとみちゃんから貰うって言ってたし)

だから姉からのチョコが、こんなのでも文句は言うまい。
会場の混み具合と同様に、レジもかなりの人が並んでいた。その最後尾に着く。するとすぐに、最後尾は制服姿の2人の女子高生になった。

まだ、チョコをどうするか決めていない。だけど、あげる、あげないで考えれば、“あげない”という選択肢はかごめにには無かった。
ただ、どう渡すか決めかねている、というのが正直なところなのだ。

どうしようかと考えているかごめの耳に、ふと後ろの女子高生の笑い声が聞こえてきて、そちらに気が向く。

「そういえば、チョコっていえばさ、この間うちの犬が留守中に板チョコ半分くらい食べちゃってさ~」
「え、それやばくない?犬ってチョコダメでしょ?」
「そうなのよ、だから慌てて病院連れてったんだ。ま、何ともなかったから良かったけど」

その後も女子高生の話は続いたが、かごめはピシリと固まってしまっていた。

犬にチョコはダメってことは、半分犬の妖怪である犬夜叉もダメなのでは?
(いや、でも半分は人間だし……)

悩みがますます根本的なものになってしまった。
しかも、食べられるかどうかだ。かごめは、猫にあげてはいけない物は知っていたが、犬については曖昧だった。もちろん猫にもチョコはダメなのだが……


「あれ、日暮じゃないか?」

ぶつぶつと悩みながらかごめが歩いていると、後ろから呼び止められ振り返った。
「あ、やっぱりそうだ。買い物帰り?今日は体調大丈夫なの?」
爽やかな笑顔で話しかけてきたのはA組の北条だった。少し驚きながらもかごめも笑顔を向ける。
「あ、北条くん……うん。北条くんも買い物?」
「まあね。日暮ずいぶん買ったんだね。よかったら家までおれ持つよ?」
「え、いいよ別に!見た目ほど重くないし……」
「でもこの前も入院したんだろ?今は元気なつもりでも、無理するなよ」

まるで北条の周りだけ、春のような爽やかな風が吹いているようだ。にこやかに笑いかける少年は、ここしばらくかごめの周囲には見ない類のものだ。
他意の無い、心からの心配を向けてくる北条にも嘘を吐いていることにかごめの良心がちくりと痛む。

「じゃあ、お願いしちゃおうかな?」

その痛みを少しでも鎮めるためではないが、かごめは北条の申し出を受け入れ、荷物を手渡した。


帰り道で、北条はよくしゃべった。学校のこと、部活のこと、最近見たテレビや映画のこと、友達のこと。かごめはそんな北条の話を時折相槌を打ったり、笑ってみせたり自分から振ったりして歩いた。日暮神社の石段まで、会話は途切れることなく続いた。
普段、口数の少ない犬夜叉といるせいか、会話が途切れることなく進むことが、何だか不思議な気がした。

「ありがとう。ここまででいいよ」
石段の鳥居の前で、かごめは北条に礼を言った。
「おれ、うちの前まで持つよ?」

かごめを超虚弱体質だと信じて疑わない北条は、無理をさせてはならないと思ってか、かごめに荷物を返すのをためらった。もう少しかごめといたいというのも少しはあるだろうが。

「ううん、いいよここまでで。日も暮れてきたし、遅くなっちゃ悪いよ」
それでも北条は、構わないと引き下がらない。
重い荷物を持ってくれる紳士的な北条には感謝しているし、正直助かった。
しかし、家まで持って行ってもらって、もしも犬夜叉が迎えに来ていたら……。

(犬夜叉のこと誤魔化すのもめんどうだし、犬夜叉が黙ってないわ)

いくらなんでも、いきなり掴みかかるなんてことはしないだろうが、ある意味最強の北条くんが何を口走るかわからない。
できれば、この2人は鉢合わせて欲しくないというのが本心だ。

「本当に大丈夫よ。今日は荷物持ってくれてありがとう。とっても助かったわ。あ、そうだ。北条くん、ちょっと荷物貸して」

口を開ければ、北条が喜びそうな言葉が次から次へと何も考えずに出てくる。こういったことに慣れてしまっている自分に少し落ち込みながらも、かごめは思い出したように北条の手から荷物を受け取ると、石段に置き中を探る。

「はい、これ。こんなので悪いけど、いつも色んなお見舞いくれるのと今日のお礼」

そう言って、草太の分と思って買ったチョコを差し出した。
本当にお礼としては、こんなのだがとりあえず、ありがとうの気持ちは本物だ。
200円のチョコでも。

「うわあ、日暮ありがとう。おれ、すげー嬉しいよ」

かごめからチョコを受け取り、北条は頬を赤らめて破顔した。
200円のチョコでここまで喜ばれると、かごめも少し申し訳なくなる。
本当に嬉しそうな北条に、かごめは弟にやる分だったなんて、言えるわけもなくただ笑うしかない。

「じゃあ、今日は本当にありがとう。ここまで持ってもらって助かった」

かごめは北条に礼を言うと、石段に置いたままだった荷物を持って、鳥居を潜った。

「日暮、お返しはちゃんとするから!」

振り返ると、北条が笑顔で手を振っていた。かごめも手を振り返して、前を向いて石段を昇る。


犬夜叉にチョコをあげても、ああいった反応は返って来ないだろう。意味を教えて渡しても、ろくに礼も言わずに目を逸らすだけだ。

上気した頬を誤魔化そうとして顔を背けて、照れくさいのをやり過ごすようにわざと荒っぽい言い方をする。

想像するのは易くて、思わずくすりと笑ってしまった。「ありがとう」も「嬉しい」も言ってはくれないだろうけど、喜んではくれるだろうか。
かごめが「好き」という気持ちを形にしてあげたら、犬夜叉は受け取ってくれるだろうか。
 
だけど、と足が止まる。
 
昨日からのもやもやがまた、胸の中に渦巻く。
犬夜叉に伝えてもいいのだろうか。伝わるだろうか。
 
(そもそも、犬夜叉にチョコって大丈夫なの?)
 
うーん、とかごめはまた堂々巡りを始めてしまった。
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