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唐梨の木

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日暮神社はそれなりに歴史のある神社だ。骨喰いの井戸の先の時代にはまだ今の場所に神社は無いが、楓の住む庵の脇に鳥居とその先に小さな祠が祀ってある。それがこの神社の祖なのかどうかは分からないが、少なくとも500年近くこの神社はこの地を守って来た。その歴史に匹敵するように日暮神社はそれなりの敷地面積があった。階段を登った先にある二の鳥居を潜ると参道が続く。そこから本殿までは少し歩く事になる。その本殿の脇に生け垣を隔ててかごめの自宅はあった。
 
参道を外れ、玄関に着くまでに敷き詰められた玉砂利を踏みながら、かごめは決心した。
(犬夜叉にきちんと説明して、渡そう)
もしかしたら、食べたらいけないのかもしれないことも含めて、バレンタインの意味とチョコに込めた思いを犬夜叉に伝えよう。
そう決心すると、なんとなく嬉しいような恥ずかしいような気分になって、マフラーに顔を埋めた。
 
家に着くと、かごめは居間にいる犬夜叉を見て、北条に家まで荷物を運んでもらわないでよかったと、ほっと胸を撫で下ろした。
「ただいま」

 
犬夜叉は何をするでもなく、ちゃぶ台の前で胡座をかいている。
「……遅かったじゃねえか」
視線だけをかごめに向け、犬夜叉はそれだけを返した。いつもと変わらない仏頂面のはずなのに、これからチョコを渡すと思っただけで犬夜叉の琥珀色の目を見ていられなくなって思わず目を逸らした。
「遅くなってごめんね。薬とかが残り少なくなってきてたから、買いに行ってたのよ」

代わりに手にした荷物に視線を移して持ち上げて見せる。
ちらりと犬夜叉に目を向けると、いつもならかごめが帰宅すると遅いと言って怒ってくる犬夜叉が、不機嫌さを醸し出してはいるが、今日は静かだった。かごめはそれをやや不審に思ったが、それよりもいつバレンタインの話を切り出そうかと、タイミングを探していた。
「…それだけか?」
「それだけよ?」

眉間に皺を寄せて犬夜叉はかごめを見上げてくる。その様子は控えめに言っても、コンビニ前にたむろうヤンキーくらいにしか見えない。見慣れたとは言え、かごめはもったいないと思ってしまう。琥珀色の眼は光が当たれば、金粉を蒔いたようにきらきらと輝くし、長い銀髪はさらさらと流れて女であるかごめが嫉妬してしまうほどだ。
じっと見つめていたことに気が付いて、頬に熱が登る。犬夜叉のことを見られないと思えば、ずっと見つめていたいとも思ってしまう。さっきから矛盾だらけの自分に戸惑いながら、かごめは部屋に行こうと廊下に出た。
「荷物まとめるから、もう少し待ってて」
「あら、夕飯食べていけば?」
かごめが自分の部屋に向かおうとしたところで、台所からかごめの母が声をかけてきた。すでに夕飯の支度を始めているのか、エプロン姿だ。母は確認するように犬夜叉にも笑顔を向ける。
「…さっさと戻るからな」
しぶしぶといった感じに犬夜叉から了承が下りた。
「じゃあ、急いで作るわね」
犬夜叉がかごめの母に逆らえないのを知ってか知らずか、本人はにこやかに台所へ引っ込んだ。すぐに軽やかな包丁の音が響き出す。
その音を背後に聞きながらかごめは階段を登り、自分の部屋に向かう。後ろに犬夜叉が付いてくる気配がする。今言うべきかと思ったのだが、なぜか微妙な距離を空けている犬夜叉に声が掛けられない。
2階の廊下の途中で草太の鼻歌が聞こえた気がして、苦笑してしまった。

(よっぽど嬉しかったのね……)

部屋に入るとかごめは買ってきた荷物を机の上に置いて、始終無言で付いてきていた犬夜叉に振り返った。
その瞬間、かごめは息を呑んだ。
窓から暮れ泥む【くれなずむ】夕日が部屋を照らし、犬夜叉の黄金【きん】の双眸と銀婁【ぎんる】の髪を煌【きら】めかせる。そんな犬夜叉が全く知らない人のように見えて、かごめはことりと心臓が揺れた。
いつもはきらきらと光の粒子を弾く黄金の眼が、今はなぜか無機質なものに見えてかごめを落ち着かなくさせる。

「何?」
ずっと黙ったままの犬夜叉に、かごめは努めて明るく笑いかけてみる。
「……別に」
しかし犬夜叉は目を僅かに細めて、素っ気ない返事を返しただけだった。
「そう……」
かごめは気にしていない風を装って、話題を探した。
「草太ったら、やけにご機嫌だよね。そんなにひとみちゃんからチョコもらったのが嬉しかったのかしら」
言ってからしまった、と思った。まだ、心の準備が出来ていないし、なんて説明するか考えていない。
「そうだな……」
幸い犬夜叉は草太の様子に関心がないのか、その話題には乗ってこなかった。またしても、沈黙が流れたが、かごめは内心ほっとしてしまった。
だが、このままというわけにはいかない。それなのに、温もりを失ったような黄金色の目が、なぜかかごめを困惑させた。
窓からの日差しが、だんだんと朱みを帯びてきている。
「そろそろ電気点けようか」
かごめは次第に朱色に染まっていく室内で、無機質感を増していく犬夜叉の瞳に耐えきれなかった。電気を点けようと、犬夜叉の脇を通り過ぎようとした時だった。

 
一瞬のことだった。
あっと思った時にはすでに遅く、かごめはバランスを崩してそのまま背後に倒れた。ギシリとベッドのスプリングが鳴る。さらりと銀糸の檻がかごめを囲んだ。
目を開けると、琥珀色の獣眼に捕らわれる。
何時になく真剣な犬夜叉の眼に、かごめは言葉を失った。
カーテンを明けたままの窓から差し込む夕日が、室内の陰影を濃くしていく。かごめを囲む銀糸の檻を鴇色に染め、琥珀を冷たく輝かせた。
「あの、何……」
「どういうつもりだ」
やっと口を開いたかと思えば眉間の皺をより深めて、不機嫌そうな低い声が降ってくる。
犬夜叉の機嫌を損ねるような覚えが無いかごめは、降り注ぐ視線をそのまま受けるしか無かった。

いや、思い当たることはあるにはある。あれを見られていたのだとしたら、犬夜叉は不機嫌にもなるだろう。だけど、ここまで怒るには理由が小さすぎる。犬夜叉が、今日が何の日か知っているなら、別なのだが。
しかし、かごめは今日のことをまだ犬夜叉には話していない。話していたらこんなに悩まなかったはずだ。
だから、犬夜叉の怒りの原因がよくわからない。

いつもの不機嫌とは何か違う気がして、かごめは知らず知らず体を強ばらせた。
 
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